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遷移金属元素とヘテロ元素,典型金属元素および有機官能基などを含む系はd電子,hypervalency,電子受容性の空軌道,s, p, σ, π 軌道が相互に作用しながら構造,反応性を決めることから,分子科学的に興味深い。
本講演では,2,3の遷移金属元素とヘテロ元素を含む反応系の理論的研究を紹介し,その反応過程の詳細と反応過程の支配因子を明らかにする。
具体的には,金属錯体を触媒とするアルケンのヒドロシリル化反応,遷移金属錯体による二酸化炭素の水素化反応,炭酸脱水酵素を取り上げる。ヒドロシリル化反応の理論的研究では,触媒サイクルを理論計算から明らかにし,さらに,反応機構が前周期および後周期遷移金属錯体で異なること,および,その相違の理由を分子論的に明らかにする。
また,遷移状態でケイ素のhypervalencyがどう相互作用に関与しているか,についても言及したい。
遷移金属錯体による二酸化炭素の水素化反応でも,触媒サイクル全体の描像を明らかにし,反応経路がわずかな反応条件の変化(微量の水の添加)により変化することを理論的に明らかにし,遷移金属化学反応の柔軟性を示したい。
いずれの場合も,中心金属の被占および空のd軌道とそのエネルギー準位が反応過程に重要な役割を果たしていることを明らかにしたい。
遷移金属錯体は,多くの金属酵素の活性点でも重要な作用を示している。炭酸脱水酵素(CAII)の反応機構については,詳細な検討を行い,Lipscomb機構とLindskog機構のいずれが正しいか,を明らかにし,この反応機構の決定に微量の水の存在が重要な作用をしていることもあわせて報告したい。
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