「量子情報科学」講義(Q301810)資料:04年4月19日
第2章 古典物理学におけるエントロピーと情報
2.1 はじめに
前の章では、完全な確率事象の組を基礎にして、エントロピーEntropyを導入した。この章では、このエントロピーと物理学に出てくるエントロピーとがどのように関係づけられるのかをしらべてみる。そもそもエントロピーは、熱力学において導入された概念である。その熱力学のほとんどの体系を最初につくったのはカルノーCarnotであるが、エントロピーという概念を提唱したのは、クラウジウスClausiusであった。
クラウジウスは、カルノーの提唱したカルノー・エンジンという熱機関や、カルノー・サイクルというその運転法をさらに詳しく分析している過程で、温度がというようなさまざまな熱源と接触しながら、機関本体の作業物質への熱の出入りが
であるように、運転されていている場合、
という量を導入し、この量と状態量としてのエントロピーとの関係を、「この熱機関が可逆的に運転されるなら、状態Aから、状態Bにいたる過程での上記の和は、終状態Bにおけるエントロピーと始状態Aにおける差に等しくなる。」と結論した。この定義からすれば、可逆的な過程だけを考えた場合、エントロピーと上記の和とは同一視できる。しかし、可逆過程でない場合、両者は違ってくる。実際に可逆過程でなければ(すなわち不可逆過程であれば)上記の和は負になる。
熱力学のエッセンスは、エネルギー保存則を拡張した、エネルギーと熱を統合した保存則(第1法則)と、孤立系におけるエントロピーの増大則(第2法則)である。最初の部分は直感的にも理解しやすい。しかし、後者はなかなか理解できにくい。その理由の一つは、後者にはさまざまな同等な表現があるからだろう。クラウジウスのエントロピーの概念を用いると、熱力学の第2法則は、「孤立系におけるいかなる変化(過程)においても、最終状態のentropyは、最初の状態のそれより減少することはない」と表現される。これはまた、彼自身の表現である、「その過程の最後の結果が、ある温度にある物体から熱を取り出し、それより高い温度にある物体に受け渡すだけであるような過程は不可能である(Clausius)」とも、ケルヴィン卿と呼ばれたトムソンThomsonの「最終結果が、同じ温度に保たれている熱源から仕事をさせられる熱(work heat)を取り出して、それをすべて仕事に変換するだけで、それ以外の変化は起こさないような過程は不可能である(Lord Kelvin)」とも表現される。これらの主張は、第2種の永久機関が不可能であることの根拠