-孤立系におけるいかなる変化(過程)においても、最終状態のentropyは、最初の状態のそれより減少することはない。
-孤立系においてentropyが最大の状態は最も安定な状態である。
第3法則、絶対零度におけるすべての系のentropyは常にゼロにとれる。(Nernst’s theorem)。
-有限回の変化(過程)を踏んで、物質の温度を絶対零度にもっていくことはできない。(この法則は物質が原子からできているという仮定から導かれる(アトキンス、p.15)。
2.1.2 熱力学の難しさ
物理学の中でも、熱力学はわかりにくいと言えるのではないか。そもそもいわゆる熱「力学」は、力学とは言いがたく、熱学と称するのがよいという主張もある。熱力学をわかりにくくしている最大の理由は、第2法則に出てくるエントロピーの概念の捉えにくさにあるのではないか。さらに、この法則が一見関係がわかりにくい、さまざまな形で表現されていることも問題である。数学的に言うと、エントロピーを導入するためには、多変数関数に関る「全微分Total differential」という概念が必要になる。また、カルノー・エンジンという仮想の熱機関や、カルノー・サイクルという物理学的な思考実験、さらに可逆過程というような仮想の実験手段を理解しなければならない。
次が、さまざまな変数が登場することである。これらは、何らかの関数で互いに、関係づけられているので、ある変数やある関数から、容易に他の変数、他の関数の関係が導ける。これらは、専門家には実用的で、便利な表現であっても、初学者には目が回る。これらの関係の中に、多変数の変微分が入ってくるが、物理学の学生が多変数関数の解析を授業で学べる機会は少ない。
また、記号の問題がある。力学や電磁気学など物理学の他の分野では、重要な物理量の記号はたいてい統一さている。例えば、rは座標、pは運動量、Fは力、Wはエネルギー、αは加速度、tは時間である。熱力学の場合も、Vは体積、pは圧力、Tは温度、Sはエントロピー、という表記が多いが、統計力学との接点となる、状態数、状態和(分配関数)などは、本によってまちまちである。例えば量子力学の教科書で、普通Hで表されるHamiltonianを、さまざまな記号で表したら混乱するであろう。熱力学や統計力学の教科書では、こうしたことが実際に起きている。このことは記号の正負のとりかたの違いでさらに増幅されている。例えば熱や仕事の正負を「出た熱を正とする」か、「入ってきた熱を正とするか」、「系がした仕事を正とするか」、「系がされた仕事を正」とするかなど、書き手によって、正負のとり方はさまざまである。熱力学には不等式が多いから、こうした正負のとり方は、不等式の向きに関係すること少なくない。
最後に、内容である。熱力学は気体、溶液、化学反応など、どちらかというと化学の範