からなる完全気体1モル(10数グラム)をとれば、そこではアボガドロ数(約6x1023)に相当する数の小さな球(粒子)でイメージされるような小物体が含まれるということは分かっていた。もちろん、こうした膨大な数の粒子の状態を正確に知ることはできない。そこで熱力学は、こうした膨大な数の個々の状態を問題にすることなく、それらが全体として、外から見て、安定した、変化が起きていないように見える状態に落ち着いている時に測定を行い、それらの測定値の間の関係をしらべて、法則を発見し、これらの法則が多くの実験を通じて正しいことを経験してきたのである。

 

しかしながら、これではいつまで立っても、巨視的な熱力学の世界と力学で記述される微視的な個々の粒子の世界とは、直接の結びつきをもたない。この橋渡しをするためには、やはり何とかして、個々の粒子を対象とした記述に踏み込まなければならない。ただ、粒子の数は膨大であるから、力学の基本である、粒子の位置や速度(あるいは運動量)を測定したり、決定したりすることは諦めなければならない。しかしながら、その集団としての振る舞いや、個々の粒子の状態を確率的に表現することはできるかもしれない。否、むしら数が膨大だからこそ、確率的な記述は正確さをまし、「ほとんど確からしく起きる」ことが多いであろう。こうした記述の対象として、もっとも簡単そうなのは、膨大ではあっても、個々の粒子は衝突以外の干渉は互いにしていない、希薄な気体のような系であろう。ということで登場したのが、「気体分子の運動論Kinetic Theory of Gas」である。この問題に果敢に取り組んだのが、マックスウエルMaxwellである。彼は、電磁気学を体系化した人として著名であるが、気体運動論の先達者でもあった。そして、このマックスウエルの仕事を畏敬の念をもって注目していたのが、ボルツマンであった。

マックスウエルは、容器中に閉じ込められながらも、壁や互いに衝突しながらも、自由に運動している気体分子をモデルとして、それらの分子の速度(ベクトル量)や、それらの3方向への成分、速度の絶対値である速さなどの、分布を計算した。分布というのは、ある粒子が、例えば、速さがvと、v+dvの間にある確率である。後で述べるが、それは

 

            

 

となった。これから、速さの平均も求められる。個々の粒子の速さの平均の2乗は、運動エネルギーに比例している()から、これに粒子の数を乗ずれば、運動エネルギーが求まることになる。これらの粒子がポテンシャル場の中にいないとすれば、エネルギーは運動エネルギーだけになり、これは内部エネルギーそのものである。これによって微視的な世界の量と巨視的な世界の量が結びついたことになる。