2.3.2 Bolzmannの原理

 

ボルツマンのエントロピーの解釈

ボルツマンBoltzmannは、マックスウエルの構築した巨視的な世界と微視的な世界との結び目をさらに強固にした。彼が提唱したのは、熱力学的なエントロピーが、微視的な世界の統計量である「状態の数」

                

という関係にあるということである。ただし、

は、ボルツマン定数と呼ばれる。今日この関係は、ボルツマンの原理Boltzmann’s Principleと呼ばれている。この式は、彼が眠るウィーンの墓の墓石に刻まれている。さまざまな批判にあって、悩みながら量子力学が登場する直前の1907年に自殺した。このことは有名であるが、実は彼自身はこの形の式を記述したことはなかった。この式を最初に使ったのは、黒体輻射の研究から量子(hPlank constant)仮説を提唱したプランクMax Plankであり、それが書かれたのは有名な彼の熱力学の本の初版(1906年)においてである。比例定数を導入したのもPlankである。Boltzmannは、「エントロピーとある状態のとる確率とが比例関係にある」ことを指摘した。この考えをボルツマンの原理Boltzmann’s Principleとして宣伝したのは、むしろアインシュタインA. Einsteinであるが、彼が用いたのは、

 

         

という式の方であった(Sommerfeld, p.213による)。

 

BoltzmannH定理

 Boltzmannが使ったのはむしろ、

          

によってSと関係しているH関数である。SHとは、定数と符号が違うだけであるが、無次元である。この点のお陰で、熱量の(したがってエネルギーと同じ)単位を温度で割った次元を有するSよりも、情報エントロピーに近い。このHに関して、BoltzmannH定理と呼ぶ関係を導いた。彼は無数の衝突が起きている気体分子系を想定し、ある衝突の前後のHを計算すると、Hが常に減少していくことを示した。そうすると十分時間が立ち、したがって十分の多くの衝突が系の内部で起きると、最早H減少できない状態が実現するだろう。このH最小となるこの状態は、最大のWをもつ状態でもある。

 ここで、孤立系に関する熱力学の帰結を思い起こせば、熱力学的な平衡状態にある、すなわちentropyが最大の状態は、それに対応する微視的な力学的な状態の数が最大の状態