を同時に備えているからである。さらに、密度演算子の固有値を事象の確率とするエントロピーが定義できる。これらのエントロピーは、熱力学はもとより統計力学の(ボルツマンの)エントロピーより、さらに直接的に情報エントロピーに対応づけられる。すなわち、量子統計力学における密度演算子によって定義されるエントロピーは、物理的なエントロピーであると同時に、情報エントロピーとしての性格も明瞭に備えている。
ボルツマンの原理が、熱力学と統計力学を結ぶ要であるとすれば、量子統計力学の密度演算子は、量子力学統計情報論を結ぶ要であると言うことができる。
4.2 スピンと多粒子系の統計
ここでは、同じ種類の量子力学的な粒子からなる、多粒子系を取り上げる。量子力学的な粒子という意味は、これらの粒子が、内部自由度であるスピン角運動量をもっていること、同種の粒子は互いに弁別不可能であるということである。
スピンという内部自由度によって、これらの粒子は、ボース・アインシュタインBose-Einstein粒子とフェルミ・ディラックFermi-Dirac粒子に大別される。すなわち、前者は、スピンの値が整数値(0, 1, 2, …)であり、後者は半整数値(1/2,3/2, 5/2、…)である。以下、簡単にフェルミ粒子(フェルミオン)、ボース粒子(ボゾン)と呼ぶ。電子、陽子(水素の原子核)、中性子、中間子はフェルミ粒子であり、電磁場、固体の中の振動を量子化したフォノンはボース粒子である。この規則は素粒子一般にも成り立ち、素粒子の複合系にも成り立つ。中間子、
はボゾンであり、ヘリウム
はフェルミオンであり、
はボゾンである。いままでのところ、この規則に反する例は見つかっておらず、自然の基本的な規則と考えられている。
スピンと統計性に関するこの規則は、非相対性理論からは導けない。この原理を相対性理論の立場から導いたのは、パウリW.Pauliであり、彼の論文がPhysical Reviewに発表されたのは、1940年である。この証明は簡単ではないため、ほとんどの教科書には説明されていない。言わば公理の扱いをうけている。パウリは、フェルミ粒子は、「同一の量子力学状態を2つ以上の粒子が占めることができない」、というパウリの排他律Pauli’s Exclusion Principleの発見者でもある。
以上の古典論には見られない量子力学粒子の性質が多粒子系の波動関数表現にとのように影響するかを見てみよう。
不弁別性と対称性
いま、N個の同一粒子系を記述する波動関数(状態ベクトル)があるとする。N個の中のある特定の2つの粒子iとjに着目して、波動関数をと省略して表記する。この