と定義される。この複合系に関するシュミット分解は、N粒子系における縮約された密度演算子、による展開とまったく同じ形式になる。

 量子情報、量子計算では部分系の密度演算子のゼロでない固有値の数をシュミット数Schmidt numberと呼んでいる。この数は、2つの部分系の絡み合いEntanglementの度合いに対応している。ゆえに大変重要だと見なされている。

 

主語ー述語の双対性

 シュミット分解の特徴は、計測対象と計測項目としてみた場合のデータ表に関する対称性(双対性)にある。特徴抽出論の立場から言えば、対象を弁別するために記述項目間の関連をしらべるのであるが、計測項目を考察の対象、計測対象をそれぞれの項目に対する計測項目と入れ替えて見る立場も取りうる。ただし、実際のデータ処理においては、対象ベクトルを規格化するので、どちらの立場を取るかで、計算は完全に対称にはならない。しかし、考察の進め方は全く同等である。

 計測対象と計測項目の関係は、「何々は、何々で特徴づけられる」という、我々の基本的な認識の出発点となる主語―述語による記述法の特別な場合である。これが計量化された場合、主語と述語の間に区別はなく、同じ方法で情報の特徴の抽出が行えることをシュミット分解は示している。この意味では、計量的な認識論における基本定理と言って過言ではないだろう。

 

情報縮約の理論

 情報理論の真髄を一言で表せば、「不必要な情報を捨て、分散した情報をより少ない役立つ情報に集約すること、すなわち情報を縮約すること」であると言える。自然科学や経済学の法則と言えるものは、まさに情報の縮約である。シュミットの分解は、物理的な実態やその観測値であるデータの表現であるに含有されている構造を抽出し、それを重要度にしたがって並べて見せることを可能ならしめると言ってもよい。特徴が把握されれば、重要でない部分を捨てたり、重要な要素だけに着目したりして、新しいパターンを分類することができる。この意味で、複合系に関する密度演算子と非対称であるデータ表(行列)から生成される2つの対称行列とは形式だけでなく、その内容も見事に対応していると言えよう。