向きの観測値を与えるものが30パーセント、下向きが70パーセント含まれているというような場合を記述できない。この場合の30パーセントや70パーセントは、波動関数が与える確率振幅とは無関係な、日常的な意味での頻度である。こうしたさまざまな状態にある、単一系あるいは複合系を記述するのが密度演算子である。

 

第4章で密度演算子を量子力学的な状態への射影演算子の1次結合であり、係数は負でない実数であり、その和は1に等しいと定義した。

          

ただし、これらの状態は直交している必要はない。またこの定義では、状態ベクトルが1粒子系のものなのか、多粒子系のものなのかなどは指定していない。

 

 部分系からなる複合系の密度演算子をとすれば、部分系の密度演算子は、それぞれ

          

 

で与えられる。ただし、部分Traceは、の任意の2つのベクトルの任意の2つのベクトルによって、

 

    

 

と定義される。

 

 

2状態系の記述

 ここでいう2状態系とは、系の取りうる状態が2つしかない量子力学系のことである。実際にはもっと自由度があっても、他の自由度を無視して構わないという近似が成り立つ系のことを意味する。スピンという内部自由度だけに着目した単一電子の状態とか、電場の中にあるアンモニア分子は、3つの水素原子の張る平面に対する窒素原子の位置に関しに関して2状態系で近似できる。また光子の偏光も、右回りの旋光性の状態と左回りの旋光性を示す状態という2状態系で記述できる。水素分子のイオンの場合、1個の電子が2つの陽子の核のいずれかの近くにいるという2つの可能性の重ね合わせになる。粒子についても同様なことが言える。

 2状態系の状態は2次元のヒルベルト空間の点である状態ベクトルに対応する。ハミルトニアンは4成分だけである。2状態系は基本的に、1/2のスピンを有する電子のスピン状態を記述するのと同じ方法が使える。この意味で2状態系は等価である。(ファイマン、量