M. Nielson and I. Chuang, Quantum computation and quantum information, Cambridge University Press, 2000
であろう。ただし、これは670頁を越える大著である。日本語の入門書では、
西野哲郎、量子コンピュータ入門、東京電気大学出版局、1997
広田修、量子情報科学、森北出版、2002
があるが、話題は限定されおり、M. Nielson and I. Chuangほど論述の丁寧さを求めることはできない。こうした分野が台頭してきたきっかけと期待を整理すると次のようになるだろう。
7.4.2 量子情報計算の源流
マックスウエルのデモンをめぐる論争
マックスウエルのデモンは、分子の運動状態を観測し、制御はするが、物理的な仕事をしたり、エネルギーを転換したりすることがない、抽象的な存在であった。こうした生物に似た知的な存在による情報処理が物理学の法則(熱力学の第2法則)を破るかもしれないという疑問である。このデモンを片付ける論法は、実際のデモンの仕事には観測、情報の記録、計算などの過程が含まれる。これらの情報処理には、物理的なコストがかかる。そうしたコストを計算に入れれば、熱力学の第2法則は保存されるという論法である。分子の速さを計測し、何らかの操作をするデモンは、計測したり、記憶したり、計算したり、記憶を消去したりする必要がある。そこでは当然、計算するコストを見積もる問題も発生する。マックスウエルのデモンに象徴されるように、物理学の中で知的な存在や情報処理を考えると、必然的に量子情報処理、量子計算の問題に行き着くことになる。マックスウエルのデモンの論争史から言えば、量子情報計算の台頭で新しい光が当たってきたことになる。
計算機の研究
プログラムを内蔵した計算機の概念は、チューリングA. Turingによるチューリング・マシンによって確立された。それは1930年代のことであるが、それからおよそ10年後に、そうしたマシンが電子計算機として実際につくられた。それ以後、とくに真空管の代わりにトランジスターが使われるようになってから、電子計算機の記憶容量や演算能力は指数関数的な増大を続けて今日に到っている。計算の物理学的な基礎や量子計算に関する基盤となる多くの仕事は、ランダウアーRolf LandauerやベネットC.H. Benettらによって、