IBMの研究所でなされた。そこでの研究動機は、明らかに、より高速、大規模な計算を、より効率的に行う方法の開発である。彼らの仕事は、理想的な熱機関を求めて熱力学の原理を完成したカルノーのそれを想起させる。
半導体回路が使われるようになってから、計算機の進歩は18ヶ月で2倍というMooreの法則にしたがってきたが、さすがに1980年代になると、計算の速さや効率が限界に近づいているのではないかと懸念されるようになり、半導体微細加工技術に依存した方式を根本的に見直す論議が盛んになった。すなわち、半導体集積回路の集積度がさらに上ってゆけば(回路の線幅が短くなってくれば)、やがて回路は個々の原子分子の振る舞いを問題にしなかえればならないほど微細になってくるであろう。その先にはどのような技術がありうるのか?そうした未来技術の一つの可能性が分子回路素子や生物素子であった。
分子回路素子、ナノテクノロジー
1980年代の話題は、カーターF. Carterらの分子電子回路素子Molecular Electronic Devices, 単分子薄膜(ラングミュア・ブロジェット膜)、タンパク質などを利用した生物的素子Biochip、原子間力Atomic Force Microscopeやトンネル走査型Scanning Tunnelingの顕微鏡技術などである。また、原子分子の組み立て技術Molecular Fabricationへの関心が高まった。これらの技術のいくつかは、計測装置などとして実用化したが、本来の目的である新しいコンピュータ素子の開発にはつながらなかった。
同じ1980年代には、炭素の新しい分子、フラーレンやカーボンナノチューブが発見され、新しい素材としてただちに応用される可能性が見えてきたことにより、1990年代にはナノテクノロジーへの関心が高まった。
Feynmanの洞察
1957年12月29日、 R. FeynmanはCaltechにおけるAmerican Physical Societyの会合で、“There is a plenty room at the bottom”と題する講演を行い、1/64インチのモーター、微細なコンピュータなどの可能性について話した。その後、彼の語ったような微微小モーターが実際に製作された。コンピュータを小さくできるという見通しに関しては、ベネットらの計算過程の熱力学的な考察や可逆過程による計算が彼の関心を惹いた。そして可逆的な回路で計算できる量子力学的な計算機に関する考察を行った。彼の考察は、
Richard P. Feynman (J.G. Hey and R.W. Allen eds.), Feynman Lecture on Computation, Addison Wesley, 1996(原康夫他訳、ファイマン計算機科学、岩波書店、1999年)
にまとめられている。
量子力学の観測問題、基礎論