上記の準備によって、量子計算の問題は、どのような長さの量子ビットを対象として、どのようなユニタリ変換を考えたらよいかという数学の問題に転換されることになる。この意味では、量子計算は、2次元ヒルベルト空間上のユニタリ作用素という、量子力学の枠組みを想定した演算の問題となる。これは物理学の問題というより、数学あるいは計算(科)学の問題だと言えよう。

 

量子チューリング・マシン

ドィチェは、確率的なチューリング・マシンProbabilistic Turing Machine(PTM)と似た構造をもつ、量子チューリング・マシンQuantum Turing MachineQTM)を考案した。構造(イメージ)は似ているが、PTMQTMとは、実現手段と計算能力において大きく異なっている。ドィチェの構想が最初に発表されたのは、1985年である。確率的なチューリング・マシンの状態遷移は状態を逐次的に確認しながら進むが、量子チューリング・マシンでは、状態遷移を並列に行うことができる。したがって、古典的なチューリング・マシンより格段に少ないステップで計算を実行できると考えられている。このことから、量子チューリング・マシンでは、超並列演算が可能だと考えられている。

 

 

物理的な実現手段

量子計算を実現するためには、実際にどのような物理系の量子状態を利用すればいかという大きな問題かは残されている。同じ計算を実行できるという意味で等価な物理系は沢山存在するであろう。ただ実用性を考えると、まず現在の計算機と同じような計算操作ができるモデルを構成するのがよいであろう。この構成法に関しては、現在の計算機の数学的なモデルであるTuring Machineと同じようなマシンのモデルを構成しようというドィチェらの試みと、それとは別に、より物理学的な問題である計算の可逆性、エネルギー消費、状態の遷移時間など、物理学的な問題を考察しながらデザインを考えていこうとする研究の流れもある。ベネットやランダウアーの研究は後者の流れの中にあり、Feynmanはそうした研究に理解を示した物理学者の象徴的存在だった。

 

回路をつなぐ結線

 高速な素子を開発しても、それらをつなぐ結線技術が進歩しなければ、全体としての性能を向上させることは難しい。現実にはさらに回路を基板につめこむパッケージングの問題がある。極微小であると予想される量子回路とバランスした結線を開発することは、難しい課題である。

 

コーヒレンス問題

 量子計算を実行するためには、位相が厳密に制御された多数の量子状態を維持する必要