院生シリーズ(6): |
講演者:広島大学大学院理学研究科数理分子生命理学専攻 博士課程後期 村上 千穂 |
概要 |
深海は高圧・低温を特徴とする極限環境であるため、このような環境に生息する生物由来の酵素には高圧の環境に適応するための機構が備わっていると考えられる。ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)は、生物に必須の酵素である。従ってDHFRは、酵素の圧力適応機構を検討する上でよいモデル蛋白質である。
本研究では、4種の深海微生物DHFRの遺伝子をクローニングして、大腸菌による発現系と精製系を構築して、その構造と機能を大腸菌由来のDHFRと比較した。 深海微生物DHFR と大腸菌DHFRのアミノ酸配列の相同性は33〜56%であった。また、深海微生物DHFRの遠紫外CDスペクトルと蛍光スペクトルは大腸菌DHFRのスペクトルと似ており、これらの三次構造は大きくは変わらないと考えられる。次に、酵素機能を比較した。大腸菌DHFRと耐圧性細菌由来DHFRは、加圧と共に活性が減少した。これに対して、3種の好圧性細菌由来DHFRでは明らかな耐圧性を示した。これらの結果は、深海微生物由来のDHFRが大腸菌由来のDHFRとは、高圧環境に適応するために酵素反応機構や動的構造の点において異なっていることを示唆している。 |